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大分地方裁判所 平成6年(ワ)699号 判決 1997年11月28日

原告

岡本トクヱ

ほか二名

被告

狹間薫

ほか一名

主文

一  被告らは、原告岡本トクヱに対し、連帯して金二三〇万八五七二円及びこれに対する平成三年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告砂原惠子及び同岡本要一の各自に対し、それぞれ連帯して金六五万六〇〇〇円及びこれに対する平成三年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告岡本トクヱに対し、連帯して金一二〇四万九七七七円及び内金四〇六万九二〇四円に対する平成三年五月二二日から、内金六九八万〇五七三円に対する平成四年一月一六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告砂原惠子に対し、連帯して金二六五万一七一四円及び内金二六万八〇〇〇円に対する平成三年五月二二日から、内金二一三万三七一四円に対する平成四年一月一六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告岡本要一に対し、連帯して金二七七万一七一四円及び内金二六万八〇〇〇円に対する平成三年五月二二日から、内金二二五万三七一四円に対する平成四年一月一六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自転車で交差点を横断中に軽四輪貨物自動車に衝突されて傷害を負い、後に死亡した男性(当時八九歳)の遺族らから、同乗用車の運転者(被用者)とその勤務先会社(使用者)に対し、損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実(証拠上疑いのない事実を含む。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成三年五月二二日午後三時五分ころ

(二) 場所 大分市大字横田一六三番地の二田中則之方先路上

(三) 加害車 被告狭間薫(以下「被告狭間」という。)運転の軽四輪貨物自動車(大分四〇ほ六七三五号)

(四) 態様 岡本要(明治三五年五月三一日生。以下「要」という。)が、前記場所の交差点において、市道を自転車で横断中、市道を走行して来た加害車が要の右側に衝突した。

2  被告狭間は、被告森林土地建物株式会社(以下「被告会社」という。)の被用者であり、その業務に従事して加害車を運転中、前記日時場所において、前方注視義務を怠るなどして本件事故を惹起した。

3(一)  要は、平成四年一月一六日、死亡した。

(二)  原告岡本トクヱ(明治四三年二月二五日生。以下「原告トクヱ」という。)は、要の妻であり、原告砂原惠子(昭和二四年九月二九日生。以下「原告砂原」という。)及び同岡本要一(昭和二二年五月二九日生。以下「原告要一」という。)は、いずれも要と原告トクヱの間の子である。

(三)  要は、前妻ミツル(昭和一五年六月一四日死亡)との間に、佐取和加子、岡本眞也及び岡本清也(昭和四一年二月二三日死亡)の三人の子をもうけており、岡本清也には一人の子(児玉清文)がある。

二  原告らの主張

1  責任原因

(一) 被告狭間は、前方注視義務違反等の過失によって本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条による損害賠償義務を負う。

(二) 被告狭間は、被告会社の被用者であり、その業務に従事中本件事故を惹起したものであるから、被告会社は、民法七一五条による損害賠償義務を負う。

2  要の傷害、死亡

(一) 要は、本件事故により外傷性クモ膜下出血、左鎖骨骨折、左肩甲骨骨折、前頭部頭蓋骨骨折等の傷害を負った。

(二) 要は、(一)の受傷の治療のため、<1>平成三年五月二二日から同年六月三日まで大分岡病院に入院し、<2>同日から同月一一日まで大分県立病院に入院し、<3>同日から同年八月二日まで大分岡病院に入院し、<4>同月一九日から同年九月二〇日まで同病院に入院し、<5>同日から同年一一月八日まで緑ケ丘保養園に入院し、<6>同日から同月二五日まで大分県立病院に入院し、<7>同日から同年一二月一九日まで緑ケ丘保養園に入院し、<8>同日から平成四年一月一六日まで古賀病院に入院した。

(三)(1) 要は、本件事故による受傷が原因となって、平成四年一月一六日、古賀病院において、死亡するに至ったものである。

(2) 仮に、本件事故による受傷と要の死亡との間の因果関係が認められないとしても、要は、本件事故に起因して「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要する」後遺障害を負うに至ったものである(後遺障害の等級一級。症状固定日平成三年一二月一九日)。

3  要の損害額

(一) 傷害による損害

入院慰謝料 二五八万〇〇〇〇円

(二) 物損

(1) 義歯 一〇万〇〇〇〇円

(2) 自転車・衣服 三万七一四五円

(三) 死亡(後遺障害)による損害

死亡(後遺障害)慰謝料 一二〇〇万〇〇〇〇円

4  原告らの固有の損害額

(一) 原告トクヱ

(1) 傷害による損害

<1> 傷害慰謝料 一二九万〇〇〇〇円

<2> 治療費 三五万三六四四円

<3> 付添看護費 一二七万五〇〇〇円

<4> 入院雑費 三一万三三〇〇円

<5> 付添交通費 八万二〇四〇円

<6> 医師等への謝礼 八万〇〇〇〇円

<7> 診断書料 一万九三〇〇円

(2) 死亡(後遺障害)による損害

<1> 死亡(後遺障害)慰謝料 六〇〇万〇〇〇〇円

<2> 葬儀費用 一〇三万四三三五円

(二) 原告砂原(死亡又は後遺障害による損害)

(1) 死亡(後遺障害)慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(2) 葬儀かけつけ費用 三万〇〇〇〇円

(三) 原告要一(死亡又は後遺障害による損害)

(1) 死亡(後遺障害)慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

(2) 葬儀かけつけ費用 一五万〇〇〇〇円

5  損害の填補

(一) 要

死亡慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

(二) 原告トクヱ

(1) 死亡慰謝料 四〇〇万〇〇〇〇円

(2) 葬儀費用 五七万二三三五円

(3) 「示談金」 六八万四〇八〇円

(三) 原告砂原

死亡慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

(四) 原告要一

死亡慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

6  弁護士費用

(一) 原告トクヱ 一〇〇万〇〇〇〇円

(二) 原告砂原 二五万〇〇〇〇円

(三) 原告要一 二五万〇〇〇〇円

三  主たる争点

被告らは、本件事故と要の死亡、後遺障害、平成三年八月一九日以降の治療との因果関係、損害額を争うほか、<1>本件事故の発生については、要の過失も競合しているので、過失相殺すべきである、<2>原告トクヱは、要の代理人として、被告狭間との間で既に示談をし、治療費五一万五九二〇円とその他一切の損害として六八万四〇八〇円を受領している、<3>被告会社は、被告狭間の監督を尽くしていたので、民法七一五条による損害賠償義務を負わないなどと主張している。

第三当裁判所の判断

一  本件事故と要の死亡、後遺障害、治療との因果関係について

1  死亡との因果関係

(一) 証拠(甲六の一から甲一〇まで、甲二〇から二三まで)によれば、要の入院、死亡に関し、次の事実が明らかである。

(1) 大分岡病院において、頭部挫創、一部皮膚欠損、外傷性クモ膜下出血、前頭部頭蓋骨骨折、左鎖骨骨折、左肩甲骨骨折、左腸骨骨折、慢性硬膜下水腫の診断にて、平成三年五月二二日から同年六月三日まで及び同月一一日から同年八月二日まで入院治療を受けたこと、なお、途中、同病院の紹介により、同年六月三日から同月一一日まで大分県立病院(脳神経外科)に入院し、穿頭術による硬膜下液貯留ドレナージを施術されたこと(入院日数合計七三日)

(2) 大分岡病院において、脱水症、脳梗塞の疑い、老人性痴呆、閉塞性動脈硬化症、腹部大動脈瘤の診断にて、同年八月一九日から同年九月二〇日まで入院治療を受けたこと

(3) 緑ケ丘保養園において、脳血管性痴呆の診断にて、同年九月二〇日から同年一二月一九日まで入院治療を受けたこと、なお、途中、同年一一月八日から同月二五日まで、大分県立病院(胸部外科)において、慢性動脈閉塞症、左母趾潰瘍、腹部大動脈瘤の診断にて、入院治療を受けたこと((2)(3)の入院日数合計一二三日)

(4) 古賀病院において、腹部大動脈瘤、尿路感染症、頭部外傷後遺症、閉塞性動脈硬化症にて、同年一二月一九日から平成四年一月一六日まで入院治療を受けたこと

(5) 古賀病院において、平成四年一月一六日午前三時二〇分ころ、死亡が確認され、直接の死因を心筋梗塞と判定されたこと

(二) 鑑定書(大分医科大学脳神経外科医師堀重昭、心臓血管外科医師葉玉哲生、内科第一医師犀川哲典作成)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 要には、心筋梗塞発症の原因となる冠動脈硬化症が存在していたと窺えるが、死亡に際して心筋梗塞に特徴的な徴候や所見が認められたわけではなく、直接の死亡原因が心筋梗塞と特定するだけの証拠・根拠が十分ではないこと

(2) 要の死因については、一種の急死というほかなく、死因を医学的に特定できるだけの判断材料がないこと

(3) 本件事故によって要の受けた傷病と心筋梗塞との因果関係を医学的に肯定することはできないこと

(三) 以上を総合すると、要の死亡と本件事故との間の因果関係を認めることはできないというほかない。

2  傷病との因果関係

(一) 証拠(鑑定書、甲二〇から二三まで、三一)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 要は、本件事故により、頭蓋骨骨折、脳挫傷、脳出血、クモ膜下出血等の傷害を負い、これに起因して硬膜下液貯留が生じ、意識・精神・神経障害が発生したこと

(2) 要の意識・精神・神経障害は、硬膜下液貯留手術後徐々に回復し、平成三年八月二日の大分岡病院退院時には、意識が清明になり、精神・神経障害もかなり改善し、身の回りを弁ずるまでになったものの、痴呆を主徴とする精神・神経障害は相当程度残存し、同月初めころ、いったん固定状態となったこと

(3) 要は、同年八月一九日、けいれん、傾眠、意識消失等の症状を呈して大分岡病院に入院したところ、右意識・神経障害は、脱水症によるものであって、前記(2)の大分岡病院退院時に残存した精神・神経障害との連続性がないこと、ただし、要の精神障害や歩行障害のため十分な水分摂取ができず、脱水症に陥った可能性があること

(4) 要の精神・神経障害は、脱水症を契機に再び悪化し、同年九月二〇日には痴呆と判定され、歩行不能で、見当識障害、計算障害をきたすに至ったこと、そして、右痴呆と前記(2)の大分岡病院退院時に残存した精神・神経障害とは、本質的に異なるものではなく、連続性があること

(5) 要の腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症については、本件事故当時、既に罹患していたものと考えられ、本件事故による受傷との関連性はないこと

(二) 前記(一)の各事実、前記1(一)の各事実を総合すると、要は、本件事故による受傷が原因となって重篤な精神・神経障害を被り、平成三年九月二〇日には症状が固定し、精神に著しい障害を残し、常に介護を要する後遺障害を負うに至ったことが認められる。したがって、右後遺障害(等級一級)は、本件事故と相当因果関係があるものと認められる。

また、前記1(一)の入院治療のうち、(3)の大分県立病院分、(4)を除いた部分(入院日数合計一八〇日)については、要がもっぱら精神・神経障害の治療を受けていたものと認められるので、本件事故と相当因果関係があると認められる(なお、平成三年九月二〇日の症状固定後の緑ケ丘保養園における治療も、必要かつ相当なものであったと認められる。)。

二  損害額について

1  要の損害

(一) 入院慰謝料 二二〇万〇〇〇〇円

前記一1(一)の事実及び同2(二)に検討したところを総合すると、要本人の入院慰謝料は、二二〇万円と認めるのが相当である。

(二) 後遺障害慰謝料 一四〇〇万〇〇〇〇円

前記一2(一)の事実、要の年齢、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、要本人の後遺障害慰謝料は、一四〇〇万円と認めるのが相当である。

(三) 物損

(1) 義歯 損害(額)を認めるに足りる的確な証拠がない。

(2) 自転車・衣服 損害(額)を認めるに足りる的確な証拠がない。

(四) 合計 一六二〇万〇〇〇〇円

2  原告らの固有の損害

(一) 原告トクヱ

(1) 傷害・後遺障害慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

要の傷害・後遺障害について、近親者(妻)である原告トクヱに固有の慰謝料請求権を認めるのが相当である。そして、本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、原告トクヱの慰謝料は、二〇〇万円と認めるのが相当である。

(2) 治療費 二四万〇五七四円

証拠(甲三、一二)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と因果関係のある治療費として二四万〇五七四円を認めるのが相当である。

(3) 付添看護費 五五万〇五〇〇円

証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と因果関係のある付添看護費として五五万〇五〇〇円(二四時間付添をした二〇日間については一日六〇〇〇円、昼間のみ付添をした一二三日間については一日三五〇〇円)を認めるのが相当である。

(4) 入院雑費 二三万四〇〇〇円

一日一三〇〇円を認めるのが相当であるから、本件事故と因果関係のある入院雑費は、一八〇日で二三万四〇〇〇円となる。

(5) 付添交通費 六万四六四〇円

証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と因果関係のある付添交通費として六万四六四〇円を認めるのが相当である。

(6) 医師等への謝礼

これを認めるに足りる的確な証拠がない。

(7) 文書料 八〇〇〇円

証拠(甲三、一三)及び弁論の全趣旨により、本件損害賠償請求に必要かつ相当な文書料として八〇〇〇円を認める。

(8) 葬儀費用

認められない。

(9) 合計 三〇九万七七一四円

(二) 原告砂原

(1) 後遺障害慰謝料 五〇万〇〇〇〇円

後遺障害について、近親者(子)である原告砂原に固有の慰謝料請求権を認めるのが相当である。そして、本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、原告砂原の慰謝料は、五〇万円と認めるのが相当である。

(2) 葬儀かけつけ費用

認められない。

(三) 原告要一

(1) 後遺障害慰謝料 五〇万〇〇〇〇円

後遺障害について、近親者(子)である原告要一に固有の慰謝料請求権を認めるのが相当である。そして、本件にあらわれた諸般の事情を総合すると、原告要一の慰謝料は、五〇万円と認めるのが相当である。

(2) 葬儀かけつけ費用

認められない。

三  過失相殺(損害の填補)

1  証拠(被告狭間本人、甲四、五)及び弁論の全趣旨によれば、<1>本件事故現場は、交通整理の行われていない交差点であること、<2>被告狭間は、幅員約六・八メートルの片側一車線の道路(市道)を、加害車を運転して走行し、本件事故現場の交差点に至ったこと、<3>要は、市道と本件事故現場の交差点において交わる幅員約五メートルの道路から、自転車に乗って、交差点内に進入したことなどの事実を認めることができ、右事実のほか、前記第二の一1、2の事実、要の年齢等を併せ考えると、二〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

2  そうすると、要の損害のうち賠償されるべき金額は一二九六万円、原告トクヱの固有の損害のうち賠償されるべき金額は二四七万八一七一円(なお、過失相殺をするに当たっては、前記第二の三<2>の治療費五一万五九二〇円を考慮に入れるのが相当であり、前記二2(一)(9)の金額に右五一万五九二〇円を加算して二〇パーセントを減じると二八九万〇九〇七円となる。)、原告砂原及び同要一の各固有の損害のうち賠償されるべき金額は各四〇万円となる。

そして、証拠(甲一六、一七)及び弁論の全趣旨によれば、前記第二の二5の損害の填補が認められるので、要の損害の残額は九九六万円となり、これにつき各法定相続分を右過失相殺後の原告らの固有の損害に加算すると、原告トクヱにつき七八七万〇九〇七円(治療費五一万五九二〇円を考慮に入れる。)、原告砂原及び同要一につき各一三九万六〇〇〇円となり、損害の填補を控除すると、原告トクヱにつき二〇九万八五七二円、原告砂原及び同要一につき各五九万六〇〇〇円となる。

四  示談

1  原告トクヱが被告狭間との間で、平成四年一月二七日、<1>岡病院分の治療費五一万五九二〇円を支払う、<2>被告狭間側は、原告トクヱ側に対し、<1>のほかに六八万四〇八〇円を支払う、<3>今後要に後遺障害が生じたときは別途協議して補償するなどと記載した「示談書」を交わしたこと(以下「本件示談」という。)は、当事者間に争いがない。

2  被告らは、原告トクヱが要の代理人として示談したものである旨主張しているけれども、前記第二の一3(一)のとおり、要は、平成四年一月一六日に死亡しているから、本件示談は、要の示談としては無効というほかない。

3  次に、原告トクヱは、本件示談につき、錯誤無効、詐欺取消を主張しているところ、被告狭間らが同原告を欺罔したとの点についてはこれを認めるに足りる証拠がない。しかしながら、原告トクヱは、当法廷において「大分市三佐にある保険会社の若い男の人が、これを私の自宅に持って来て、この書類を出すとお金がもらえると言うので、署名押印した」旨供述しており、同原告の年齢、当時要が死亡した直後であること(同原告は、当法廷において「当時、歳をとって、一人残されて、おろおろして、夢遊病者のような生活でした」などと供述している。)などを併せ考えると、同原告は、示談の趣旨を了解せず、当面の保険給付金を得るための書類であるとの誤解の下に、本件示談書を交わしたものと認めるのが相当である。

したがって、原告トクヱとの関係でも、本件示談は無効である。

五  使用者責任

被告会社が監督義務を尽くしていたものと認めるに足りる証拠はない。

六  弁護士費用

本件事案の内容等を考慮すると、弁護士費用として、原告トクヱにつき二一万円、原告砂原及び同要一につき各六万円を認めるのが相当である。

七  以上の次第で、原告トクヱの請求は、二三〇万八五七二円とこれに対する不法行為の日である平成三年五月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、原告砂原及び同要一の各請求は、それぞれ六五万六〇〇〇円とこれに対する不法行為の日である平成三年五月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由がある。

(裁判官 松並重雄)

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